大判例

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高知地方裁判所 昭和44年(ワ)243号 判決 1971年2月24日

原告

中山森寿

被告

観光ドライブセンターこと浜田忠明

主文

被告は原告に対し金三〇二万円および内金二七〇万円に対し昭和四二年一二月一一日以降、内金五万円に対し昭和四四年五月二二日以降、完済に至るまで年五分の割合の金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、双方の申立

(原告)

被告は原告に対し金三七〇万円および内金三四五万円に対して昭和四二年一二月一一日以降、内金二五万円については本件訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合の金員を支払え。

訴訟費用被告負担、仮執行宣言。

(被告)

請求棄却、訴訟費用原告負担。

第二、双方の主張

(請求の原因)

一、昭和四二年一二月一〇日午後九時三〇分ごろ高知市棧橋通四丁目三九番地先において、訴外北原みよは被告所有の普通乗用自動車(高五わ一一二五号)を運転中同所を歩行中の原告に衝突し、同人に左下腿骨開放性骨折、頭部顔面右肩および左膝関節等打撲症等の傷害を負わせ、そのため原告は高知市の松田病院において入院二四九日間、通院一一〇日間の治療をうけたが未だ完治しない。

二、被告は自家用自動車の有料貸渡を業とするドライブクラブを経営するものであるが、訴外山崎利久に被告車を賃貸し、同人は助手席に乗り訴外北原が運転していたものである。

この場合の被告の責任についてはいわゆる「ドライブクラブの運行供用者責任」として問題とされているところであるが、本件の場合燃料費は全部借主の負担でありながら料金は相当の高額であること、料金中に保険分担金が含まれており借主が事故を起さない場合にも保険金分担金は返金されず貸主はそれで保険料の大部分を支払つていることからすれば貸主たる被告に運行利益が帰属していることは明らかであるというべきであり、また、貸渡条項によると借主は事故・故障および利用時間の変更等の場合には貸主に連絡するよう義務づけられ、転貸・営業類似行為等は禁止され、その使用は必ずしも自由でないから、貸主たる被告は借主の車の運行について支配力を有しているものである。したがつて、被告は運行供用者として原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

最高裁昭和三九年一二月四日の判決はドライブクラブの責任を否定するが、当該自動車賃貸業者が借受人の運転使用について何らの支配力を及ぼしていないとする原審の認定を前提とするものであるから、本件のように貸主が借主の運転に支配力を有する場合については適切な判例とはいえない。最近の裁判例学説の主流は、いずれもドライブクラブの運行供用者責任を肯定する方向にあるように思われる。

被告主張の本件特殊事情については、被告は訴外山崎と訴外北原が同乗することははじめから知つており、かつ訴外北原が訴外山崎と代つて運転するやも知れないことは従来の経験からして予想しまたは予想すべきであつたところ、訴外北原を保証人にしなかつたのは料金上の差もないことからその手続をとらなかつたまでのことであり、両名のいずれが事故を起したとしてもその責任につき消長はないものと考える。

三、損害

(一) 休業損失 金六三万円

原告は本件事故当時光伸建設鋼業株式会社の工員として平均月収金四二、〇〇〇円を得ていたが、本件事故により一五ケ月間休業し、その間右収入が得られなかつたことによるもの。

(二) 治療諸雑費 金七万円

原告は前記の通り入院、通院あわせて三五九日間治療をうけたが、その間入院中妻初子は他に仕事(親類の店の手伝をして月収二万円)がありながらこれをやめて約二〇〇日間原告につき添い、また、原告入院中の日用品購入費、栄養費、入退院費、通院費、病院関係者への謝礼、来客用茶菓子等原告の負担した諸雑費は相当の額となるが、少なくとも一日平均金二〇〇円は下らないとみるのが相当であり、これを計算すれば金七万円以上となるのでその内金。

(三) 慰謝料 金二七五万円

原告は大正七年二月二二日生れの男子で当時前記会社において重量の鋼材の加工、移動および高所の鉄骨建築作業に従事する工員で労務者としては前記のように比較的高額の収入を得ていたものであるが、復職後は左足に障害が残り、もはや重量物は扱えず、その労働能力は激減し雑役夫の如き単純な労務にしか従事し得ずその収入は半減した。原告の本件受傷後の肉体的精神的苦痛はまことに大なるものがあり、原告に対する以上のような後遺障害補償の意味をも含めて本件慰謝料を算定するとすれば金二七五万円を下らないとみるのが相当。

(四) 弁護士費用 金二五万円

原告は本訴を提起するにあたり法律知識手続に暗いため原告代理人に着手金五万円、成功報酬金は判決認容額の一割を支払うとの約で依頼し着手金五万円を支払つた。そこで右のうち着手金五万円と報酬金二〇万円を損害金として請求する。

四、よつて、金三七〇万円および内金三四五万円に対しては昭和四二年一二月一一日から、内金二五万円については本件訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の答弁)

一、請求原因一は認める。

二、請求原因二のうち被告がドライブクラブを経営し訴外山崎利久に対し被告車を賃貸し、同人が助手席に乗り訴外北原がこれを運転中に事故を起したことは認めるが、その余は争う。

三、請求原因三は(四)のみ認めその余は争う。

四、被告には運行供用者責任はない。

(一) ドライブクラブ方式による自動庫賃貸業者の自動車損害賠償保障法第三条における損害賠償責任について、

右法条は損害賠償の責任主体を「自己のために自動車を運行の用に供するもの」としているが、賃貸人がこれを運行中に人身事故を起した場合において、賃貸業者の立場は右文言に該当するものとし、これに同法条所定の損害賠償責任を肯定するか否かについて判例の分れること周知のとおりである。本被告は結論としてこの責任を否定した昭和三九年一二月四日付最高裁判例を始めこの判例を支持し或いはこの判例によつて支持された一連の下級審判例(東京高判昭和三七年一二月二六日、山口地下関支部昭和四三年一〇月三一日、浦和地昭和三八年六月二七日、広島地昭和四三年七月一九日)の判示理由を援用し主張するものである。これを肯定する反対判例の判示理由のうち、立法論的なものを無視し、解釈論的な論拠を抽出して右否定判例の理由と照合すると、両者の争いは詮じるところ、前記文言解釈の基準となる「運行利益の帰属」「運行の支配」という二つのうち後省の点に集約されている。蓋し、その運行を支配している以上事故の惹起、不惹起についても又支配が可能であり、ここにその賠償責任の生ずる所以がある筈だからである。

肯定判例が、業者の運行支配を認定する主な論拠は、貸与契約に基づく種々の条件、制約に注目したものであり、例えば、その契約に際し、運転不適格者に対する解除権を留保し、走行距離、使用時間、燃料代等を貸与業者において取決める以上、その運行中も貸自動車に対する運行支配を依然保有するものとする。しかし、これは直接には、物の賃貸について当然に伴なうところの取決めであり、それが一方的に業者の側から利用者に対し押しつけられたからといつて直ちにそれが自動車の運行それ自体につき、法律上も事実上も影響あるものとは考えられない。物の貸与、又はそれに伴なう利益の帰属とその物の使用とはあくまで別個のものである。

例えば利用者において貸与を受けた以上、たとい、その物を使用しなくても、規定の料金は支払わなければならない。ドライブクラブの賃貸業者にしても、貸与した以上、利用者においてこれを運行しなくても、時間が経過したならば、規定の料金は徴収可能であり、従つてその使用走行を強制しなければならないものではない。この点においてドライブクラブの場合は肯定判例の一部が援用する本請業者が下請業者に対しその保有の自動車を貸与した場合とは本質的に異なる筈である。

仮りに賃貸条件が貸与者、被貸与者双方の平等な交渉のもとに成立しておれば、或いはその様な条件が全くないものとして利用者がこれを運転中に事故を惹起したとすれば、賃貸業者の運行支配がないとしてその責任を認めないという理論も奇怪である。

加えて肯定判例の右理由は、前記法条但書と正面から衝突する結果となるが、この矛盾を説明する何らの理論もない現状である。

(二) 本件の特殊事情

本件には前記判例の諸事案と異なり、ドライブクラブ経営者たる被告が自動車を貸与したのは訴外山崎利久であるのに訴外北原みよが偶々これを運転中、本件事故を発生せしめたものである。

被告経営の観光ドライブセンターは、その自動車貸渡約款において借受人以外のものに運転させようとするとき、若しくは運転させたときには、貸渡契約を解除すると定め、これを利用者の目に触れ易い場所に掲示してあるが、二人以上のものが貸与自動車を運転する場合にはその借受申込書において特にそのうち一人を借受人とし、そのものの身元、運転免許証の有無、運転経歴等を調査してこれに記載させるほか、同伴の他の使用者についても、これを借受の保証人として同様のことを調査して記載させるようにしている。

本件の場合訴外山崎利久が訴外北原を同伴して観光ドライブセンターに来たのであるが、貸与の申込をしたのは山崎である。従つて被告としては山崎のみが貸与自動車を運転するものと認め、これにつき前記事項を調査したが、北原については単なる同乗者と認め前記の調査は全く施していない。

かくして山崎に貸与したところ、被告としては意外にも北原がこれを運転中本件の事故を惹起した。

仮りに前記肯定判例の示す前記の理由がドライブクラブに自賠法第三条所定の責任を負わせる根拠となるとしても、運行支配の対象たる訴外山崎は本件事故の場合、被害者に対する賠償責任については不在である。たとい山崎が同伴して来たとしても、その支配の外にあつた北原が、本件事故を起したものであつて、被告がその賠償責任を負ういわれはない筈である。山崎をして北原に運転させない様注意を与えることによつて、北原の運行についても間接に支配し得たのでその責任を負うべきだとする理論が成立するかも知れないが、両名は恋仲らしく、しかも借受者は男性で一方は世間ずれのしない年若き女性であつたとすれば、いかに女性ドライバーの増加した今日でも男性のみがこれを運転し女性は同乗するのみと想定するのが自然であつて、かような点についてまでその支配の可能性を認め責任の根拠とするのは苛酷である。

第三、証拠〔略〕

理由

一、請求原因一(本件事故の発生とそれによる原告の受傷・治療の事実)は当事者間に争いがない。

二、請求原因二のうち被告が自家用自動車の有料貸渡を業とするドライブクラブを経営していること、山崎利久に被告車を賃貸し、同人は助手席に乗り北原みよが運転していたことは当事者間に争いがない。

三、被告の責任

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

被告は貸渡の申込をうけた場合運転免許証の有無を確かめた上借受人に貸渡証を交付して車両を貸与すること、借受人は貸渡証を運転中携帯しなければならないこと、借受人は事故・故障・利用時間の変更等の場合には被告に連絡するよう義務づけられ、また、転貸・営業類似行為等は禁止されていること、ガソリン代は全部借受人の負担でありながら料金は相当の高額であり料金中に高率の保険料分担金が含まれていること

本件の場合は、前記事故当日友人の間柄の山崎と北原(当二〇年)が二人そろつて被告営業所に赴き山崎が借受人となつたこと、したがつて被告としては北原が運転するかも知れないことを認識し得たこと、はじめ山崎が被告車を運転して桂浜にドライブし、帰途は山崎は助手席に移り北原が運転したこと、山崎は本件事故の際前方横断歩道上の原告を発見して「人だつ」と叫び北原が急制動すると共に左にハンドルを切つた時一緒にハンドルを左に引つ張るようにして事故回避に助力したこと

ところで、自賠法三条にいう運行供用者責任は運行支配と運行利益の両面からその有無を判断すべきであるが、ドライブクラブについては、利用者が多く賠償能力を持たない無資力者であり一般的にいつて貸自動車の事故率が高く事故の危険性が極めて大であることをも考慮してその責任を決すべきであると思われる。そして、前記認定の事実関係によれば、本件の場合、被告は被告車により運行利益を得ているばかりか、山崎の運転中はもちろん北原の運転中も――山崎を通して――依然運行支配を保有していたものと認めるのが相当である。

四、損害

〔証拠略〕によれば、次の通り認められる。

(一)  休業損失 金五四六、〇〇〇円

光伸建設鋼業株式会社工員として平均月収金四二、〇〇〇円の一三ケ月分。

(二)  治療諸雑費 金一五四、〇〇〇円

妻の附添費用五ケ月間(一日約八〇〇円)

入院(二四九日)中の雑費(一日約二〇〇円)

その他入・退院費・通院費等治療諸雑費金一五四、〇〇〇円以上を要したのでその内金。

(三)  慰謝料 金二〇〇万円

本件が被告車の一方的過失による事故であること、治療に三五九日間の長期を要したこと、左足の後遺障害による労働能力の一部喪失(軽作業にしか従事できず平工員に終るほかないこと)、その他本件各事情を考慮し、金二〇〇万円をもつて相当とする。

(四)  弁護士費用 金三二万円

本訴を原告代理人に委任しその着手金五万円支払済、成功報酬は判決認容額の一割(当事者間に争いがない)。

成功報酬は金二七万円となるので右合計金三二万円。

五、よつて、被告は原告に対し右合計金三〇二万円および内金二七〇万円に対しては本件事故発生の日の翌日である昭和四二年一二月一一日から、内金五万円については本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年五月二二日から、完済に至るまで年五分の割合の遅延損害金を支払う義務があるので、本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余は失当であるから棄却し、民訴法八九条、九二条、一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 下村幸雄)

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